マンガ・アワード2003(id:osamu-teduka)の結果こっちにも貼っておきます。


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1位 「最強伝説黒沢」 福本伸行

相沢さんも書いてたけど、これが一位なのはもうしょうがないです。”40過ぎで独身・土方の、特に取り得も金も無いおっさんの日常とその心のうつろい”という、ミニマムで、個人的で、矮小で、社会的価値がゼロに近くて、需要絶無、世間からの好奇心が向く可能性はゼロなはずの素材を、ここまで盛り上げるってとんでもない偉業です。
ビッグコミックオリジナルという雑誌は、黒沢と同年代(30後半〜40)の男性をターゲットとしていますから、一見、黒沢は雑誌のカラーに合った作品と捉えることができます。
しかし、実際にオリジナルをめくってみれば、そこには、現実を舞台とはしながらも、理想化された中年が紙面を華麗に踊っている、ファンタジー・マガジンがあります。都合の良さでいえば、派手さは無いものの、ジャンプと比べても遜色無いのではないでしょうか。
そして、掲載マンガの質は高くても、ターゲット層の半ばに差し掛かってしまった人生に影響を与えるような要素は極力削られた、”安全”な雑誌でした。
しかし、そんな雑誌に、黒沢という”現実、または近い未来”が無遠慮に描かれる物語が突如として投入されてしまいました。
黒沢は、人生を揺り動かす質の作品です。危険です。
僕の世代に例えて言うなら、中学時代における人間失格ニルヴァーナお笑いウルトラクイズといったものと、同列に扱って然るべきなのではないでしょうか。
このマンガを読んでいる、黒沢の同世代を、僕は心配しています。自殺したくなるんじゃないでしょうか。社会に本格的に入る前に、この作品で描かれている現実に触れてしまった若者達が心配です。諦観に支配されてしまうんじゃないでしょうか。危ういです。
しかし、読まない人は、そもそも話にならない。そういう作品です。

 

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2位 「フェイスガード虜」 おおひなたごう

おおひなたごうは作風が安定していくにつれ、僕らの住む世界から乖離していきますね。七次元くらいのところからテセラック状態で執筆しているのだと思います。
さて、肝心の内容を、なんて説明したらいいのか全然見当がつかないんですが、象徴的で、幾分わかりやすいエピソードを、作品紹介と絡めて、一つ。
睡眠中、実の父に『一生消えないマジック』で顔にメガネを描かれてしまった主人公”虜”は、顔メガネを隠すため、サッカー・ワールドカップ日本代表・宮本のフェイスガードを参考とし、自身もそれを装着する。そのフェイスガードには千里眼になったり、ジュースが出てきたり、相手の心が見えたりする特殊機能が備え付けられていた。クラスの荒くれ者と対峙することになった虜は、さだまさし「案山子」の弾き語りを練習し始める。暴虐を働く荒くれ者の前に、案山子を弾きながら虜が颯爽と現れる。虜は、案山子を一曲、フルコーラスで、一週分のページ数の約半分を使い、歌いきる。そして、色々あって荒くれ者は退治されたのだった。
と、原作に忠実に、かなり正確に書いたつもりなんですが、どうでしょうか、お分かりいただけましたでしょうか。こういうマンガです。

 

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3位 「高速回線は光うさぎの夢を見るか?」 華倫変

僕は、人が死ぬ・生きるといった話には「ふうん」リアクションに終始するんですが、人を忘れる・人に忘れられる話に対しては、異常にゆるい涙腺を持っています。死ぬのはしょうがねえなぁと思えても、忘れられるのはキツイです。忘れてしまうのは、ひどいです。
本作に収録されている、「あぜ道」「下校中」「木々」の三話は、忘れることの悲しさと仕方なさを無慈悲に(つまり一切の嘘をつかずに、虚飾をせずに)描いていて、思い出すだけで、切なくなってきます。

 

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4位 「セクシーボイスアンドロボ」 黒田硫黄

誰かを語るときに「天才」って言葉を使うことだけは安易極まりないから避けてたんですけど、これの二巻を読んだときに、ぽろっと口に出してしまいました。天狗党でも、茄子でも、「オタクの異才」くらいにしか思ってなかったのに。ほんと見極める・見抜く目ないです。
二巻に収録されている、殺し屋のおじさんの話は、鳥肌が止まりませんでした。ワーン、陳腐な言葉しか浮かばないよー。じゃあ、安易・陳腐の極めつけ。とにかく読んでください! すっげえから。

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5位 樹海少年ZOO1 作画・漫☆画太郎 原作・ピエール瀧

画太郎先生の誇る世界レベルの適当さが、週刊少年チャンピオンという、肥沃かつメルトダウン済みな土壌で過剰に開花・無闇に炸裂した傑作。主人公が、悪の組織を倒すために樹海で修行中、アクシデントで仲間(犬)もろとも事故死→連載終了というラストには、衝撃のあまりコンビニで血尿を粗相したものです。