まだ旅立ってもいないのに 福満しげゆきamazon



マンガアワード2003で相沢さん(id:osamu-teduka)が次点に入れてましたが、僕も8位くらいに入れてました。
短編集で、すっげえ面白かったんですけど、全編にまとわりついているクタクタさがなかなかにつらくて……、入賞には到りませんでした。ミニマムな地獄には慣れてるつもりの僕でしたが、これには参りました。「うわぁこれ接するの滅入るなぁ」なんて思ったのは、根本敬『生きる』(amazon)を一気読みしたとき以来です。ホームレスの街に一日いたときだって、ここまで滅入りはしませんでした。親戚内で起こった遺産を巡る争いの中に放り込まれたときだってここまでは……。いや、あのときは「おお、横溝みてぇだ」と自分を無理矢理に客観視点における材料があったから、なんとか凌げただけでした。
しかしながら、本作を読んでいるときは、すがったり、スケープゴートにしたり、逃避できたりする何かは無く、ただただ、陰鬱な思いを強いられました。ひっどい話です。
肝心の内容ですけど、特に何も起こりません。短編集なので、主人公は全員違います。オヤジなんかも主人公として出てきますが、主な主役は、20代前半くらいの、夢も、目的も、友達も、彼女も、職も、金も、誇れるものも何も特に持っていない青年です。ただ一つあるのは、外に一切向けられることはなく、悶々とズルズルと引きずり、肥大化した自意識だけ。
発露されない自意識は、自分の中だけで延々と堂々巡りを続けるか、刃物など極端なものに姿を変え、ろくでもない結果に終わるかです。
主人公達はみんな一様に、芥川龍之介とかを襲った「漠然とした不安」みたいなものに苛まされ、「何かやらなきゃ」と憔悴し、結局何もしません。
彼らが行動するときは、何か圧倒的な力(怪獣とか)が襲ってきたときと、可愛い女の子の気を引けるかもしれないときだけです(なお怪獣は本当に現れます)。
前者の場合は、ほとんど災厄に巻き込まれたようなものですから、そりゃあもう酷い目に遭います。混乱に乗じて旧友(男)に告白され、力ずくでいいようにされ、貞操を失ったりします。僕の好きな言葉に、鶴見済さんが言った「悪いことをするのと、酷い目に遭うのは、ほとんど関係ない」ってのがあります。『まだ旅立ってもいないのに』の青年主人公たちは、これをほとんど体現しており、しかも、巻き込まれることには「しょうがない」と諦観で反応しています。
後者の場合ですが、青年主人公達は、別段頭脳や肉体が優れているわけでもなく、”行動”そのものに馴れておらず、加えて童貞なので、これまたロクな結果を生みません(童貞を身体能力の欠如、頭脳の不具合さと同列に書きましたが、本作内では童貞は完全なマイナスファクターとして扱われているので、それに準じました)。勢い余って好きな子の頭をコンクリートで殴ったり、読んでいるこっちが苛々するような無口さ・優柔不断さを発揮したりします。そして、ひどい結果をまたもや「しょうがない」と受け入れます。
これらは虚無とかニヒリズムとは全く別のもので、
「勇気が出ない」
「びびってる」
「変なことを言ってつまらない男と思われて馬鹿にされて嫌われるんじゃあ」
のような、情けない、どうしようもないものです。ひどいもんです。
で・す・が、この作品を一笑に付すことが出来ず、読むごとに疲れてしまうのは、こう、なるべくなら認めたくないんですが、やはり、しょうがないことに、青年主人公たちに、体験や記憶に基づき、感情移入してしまっているからなんでしょうね……。僕は読んだことないんで分からないんですが、人間失格読むと、こんな読後感らしいです。なるべく読まずに人生を過ごしたいものですね。




ああ、あと、『生きる』についてはそのうち改めて書きます。ここに昔書いた文はあります。 それとですね、福満先生の描く女の子は非常に可愛いので、それだけで素晴らしいです。