徐栄

新宿を歩いていると、高島屋の横、新宿ウィンズに入る道筋を、40過ぎくらいのちっちゃいおっちゃんが歩いていた。

平日の昼間から酒(勿論ワンカップ大関)を浴びるように飲み、上機嫌で歩く彼が何となく気になり、あとをつけたところ、おっちゃんが誰か知り合いに出くわし、嬌声をあげていた。

見ると正面には、ちっちゃいおっちゃんと同じくらいの背の、ちっちゃいおっちゃんがいた。顔はとても似ていた。というより、同じだった。

「さてはこれがドッペルゲンガーか」と興奮した僕はタバコを吸うフリをし、立ち止まり、おっちゃん達の側により、聞き耳を立てた。


しかし、おっちゃん達はどうやらドッペルゲンガーではなく、ただの双子だった。

「なんだ、ドッペルゲンガーじゃないのか」と一瞬だけ残念に思ったが、ドッペルゲンガーなんていう、僕でも会える可能性を持っているような凡俗な存在に出会うよりも、酒に酔った状態の、いい歳した中年の双子が、街中で偶然会う場所に居合わせることができたことのほうが、どれほど素晴らしいだろうか、とすぐさま正道に気付くことができた。更に話を詳しく聞くに、なんと二人は6年ぶりに再会したらしい。しかも、二人とも先週の同じレースに勝っており、これから悠々と当たり馬券を新宿ウィンズに持っていくところだったというのだ。そして、金銭と交換後、どんな飲み屋に行こうかと酒を飲みながら歩いていた最中、バッタリ再会した、ということだった(もう一人も当然のように飲酒していた。残念ながら発泡酒だったが。この場合、もう一人が酒を買いに入った店にはワンカップ大関が無かった、と考えるのが自然といえよう)。


僕は、あまりにも劇的な再会に深く心動かされ、こんな素晴らしい場に居合わせることが出来た感動を強く味わったが、同時に、一瞬でも彼らが双子であったことを残念に思ってしまったことを強く反省した。


そこで、謝罪の意を込め、また、彼らをわざわざ馬券売り場の前で再会させた何者かへの礼儀として、彼らが無事馬券を交換し、飲み屋に入るまで、護衛を勤めることにした。まァ護衛といっても何かをするわけではなく、彼らが、追い剥ぎに遭う、極道の靴を踏んづけ悲惨な目に遭う、脳卒中で倒れる、実は赤の他人だったことが判明する、6年ぶりに会うなり金銭トラブルを起こす、突然大喧嘩を起こし仲違いし再会をフイにする等のトラブルに巻き込まれたとしても、事態の収拾と解決に一役買うつもりは毛頭無い。彼らの今日一日をただ見守ることが、僕の護衛としての役割なのである。

道中、ウィンズで係員に飲酒をたしなめられ、二人して必要以上にヘコヘコ謝るという、さすがとしか言いようのないシークエンスもあったが、残念ながら事件らしい事件は起きなかった。そして無事、馬券を金銭に交換した彼らは、歌舞伎町の魚民に吸い込まれていった(途中、キャバクラに行こうともしていたが、弟に多額の借金があるらしく、魚民という妥協点に落ち着いていた)。


彼らの人生は、これから、また違った彩色を見せるだろう。40半ばにして、やっとまた一つに戻ることが出来た彼らに、幸多からんことを……。